亀は、だんだん、早く游ぎ出す。 「いゝかい、ちやんと眼をつぶつてなよ。ほら、一、二、三、だ」  浦島太郎の姿は、水の中に消える。  絵のやうな海底の風景。亀に乗つた浦島太郎は、神妙に眼をつぶつてゐる。 「さ、もう眼をあけてもいゝよ」  太郎の視線に、壮麗な竜宮城の全貌がうつる。  城門の前で、亀の背から降りると、太郎は夢心地であたりを見廻す。  警護の兵士が二人、近づいて来る。イセエビのやうな、甲に身を固めた厳めしい髭面の大男である。  亀が、なにか囁くと、兵士たちは大きくうなづき、先へ立つて案内しようとする。ためらつてゐる太郎の背を亀が促すやうに押す。  城門を潜ると、これも珍しい装ひをした若い女が二人、丁寧に会釈をし、兵士に代つて、太郎を奥に導く。  正面玄関の間には、両側に出迎への面々と思ぼしい男女、いづれも、魚族のいづれかを形どつた衣裳を纏ひ、長い廊下や、途中のいくつかの広間には、ところどころ、護衛が立つてゐて、恭しく敬礼する。  やがて、大広間である。眼のさめるやうな色彩と、まつたく想像を絶した別世界の雰囲気のなかに、正面の大椅子に倚つて、好奇の眼をこちらに注いでゐる婉麗な乙姫のすがたが、輝くやうに浮き出てゐる。 作業服 作業着 専門店